↑画像は2019年に撮影したロックイン新宿(許可取得済み)
2019年にnoteで記事を書いたが、内容を見直したりしてここに書いていく。
https://note.com/08888/n/nd279e72c7b0e
ここで話すこと
- シンバルメーカー
- 時間軸で語る「サウンド」
- シンバルを構成する要素
- シンバルをどう選ぶか
シンバルメーカー
有名どころをざっと挙げると以下のようなラインナップ。○○系は主観で付けた。
- 大手メーカー系
- Zildjian
- SABIAN
- Paiste
- MEINL
- UFIP
- いわゆるトルコ系
- AGEAN
- Amedia
- Bosphorus
- Istanbul Mehmet
- Istanbul Agop
- T-Cymbals
- Turkish
- ハンドクラフト系(勝手に言っているだけ)
- Burke’s Works
- Craig Lauritsen
- Funch
- emjmod
- Spizzichino
- 小出シンバル
これらのメーカーはすべてが合金から作っているわけでなく、関わり方は様々。
- 合金から作る
- 合金を買ってきてシンバルに加工する
- シンバルの形になっているものに加工して、新しい形にする
時間軸で語る「サウンド」
シンセサイザーなどに触れたことがあるとなじみ深いと思うが、「アタック」「ディケイ」「サスティーン」「リリース」はサウンドを表現しやすくする良いツールだ。大まかにはそれぞれ以下の通り。
- アタック
- 音が一番大きく鳴るまでの時間
- ディケイ
- 音がある一定の音量に落ち着くまでの時間
- サスティーン
- 一定の音量が続く時間
- リリース
- 音が小さくなっていき、消えるまでの時間
この記事では上の認識くらいで充分だが、詳しくは「ADSR シンセサイザー」とかでググると分かりやすい記事が出てくると思う。
シンバルを構成する要素
シンバルを構成する主な要素は下記のとおり。
- 素材
- 大きさ
- カップの形状
- ウエイト
- プロファイル
- ハンマリング
- レイジング
- フィニッシュ
素材
素材はB8かB20かで大別される(ほかの合金を利用したシンバルもある)。
B8は各社の廉価なシリーズやPaisteの多くで主に使われている。大まかなイメージでは高音域から中音域(スティックのピッチあたりまで)が多く鳴り、低音域は充実しないことが多い。これは廉価なシンバルでよくある、耳に痛いといった悪いイメージにつながることもあるが、Paisteのきらびやかで透き通るような良いイメージにつながることもある。ここはシンバルの形状と加工が多くを占めると思われる。
B20は高音域から低音域にかけて満遍なく出るイメージで、シンバルの形状によって幅広い音作りが可能だと感じる。両者の違いが生まれる原因には、B20はB8に比べて素材が硬いことがあるのかと思う。
余談だが、銅と錫の合金においては錫の割合が16%を境に硬度が大きく変わるらしい。工学的な話は参考リンクを貼るので、そちらを参照のこと。このリンクは大阪のドラム/打楽器専門店「どらむ村」で行われた、日本のシンバルメーカー「小出シンバル」のファクトリーツアーのレポート記事で、シンバルの製造工程が詳しく書かれている。
http://actdrum.blog.fc2.com/blog-entry-58.html
大きさ
シンバルの大きさは音の立ち上がりと音程、音量に影響する。小さなシンバルほど少ないエネルギーで鳴り、立ち上がりが早く、音程が高く、ディケイが短く、音量が小さい傾向にある。大きなシンバルはその逆で、鳴らすのに多くのエネルギーが必要で立ち上がりが遅く、音程が低く、ディケイが長く、音量が大きい傾向にある。
大口径のシンバルが求められる場面では、ローピッチを求めていたり、大音量を求めていたり、いくつかの理由が考えられる。
カップ
カップの形状は音の立ち上がりと強調される音域に影響する。カップの大きさは、シンバルの口径に対してカップが占有する割合で見ると分かりやすい。同じ大きさのシンバルでも、カップが大きくなれば、シンバルにおけるボウからエッジにかけての範囲が少なくなり、これによって立ち上がりが早く、高音域に重心が向かい、打感が硬くなる印象がある。小さいカップのシンバルは、同じ口径のシンバルと比べたとき、より幅広い成分が鳴り、低音域に重心が向かい、打感は柔らかくなる印象がある。ベルのないフラットライドは、シンバルがスティックから受け取り保持することのできるエネルギー量が少なく、低音域に重心が向かうサウンドの分かりやすい例だと思う。
カップとボディ(カップの終わりからエッジ前)とが滑らかにつながっているシンバルは、カップを叩いた時にシンバル全体が鳴る。反対に、カップとボディの境にハンマリングがされていたり曲がり方が急だったりするシンバルはカップを叩いた時に、カップのみが独立して鳴る印象がある。
ウエイト
ウエイトがある厚いシンバルは、低音域をそのシンバルの持つ最大量まで出るほど鳴らすためにより多くのエネルギーが必要だが、一度鳴れば長い間持続し、総じてピッチが高く、サスティンが長くなる。逆に、軽いタッチでは高音域が目立ち、上ずった音になることもある。ウエイトがない薄いシンバルは鳴る為に必要なエネルギーが少なく、小さく叩いても低音域まで鳴り、立ち上がりも速い。その一方でサスティンが短く、ピッチが低くなる傾向にある。
プロファイル
プロファイルはシンバルの断面を見たときの全体的な形状を言う。カーブがキツいほどシンバルの弾性が高まり、エネルギーを受け取れる量が増え、結果として音量が大きくなり、シンバルの主成分となる音域が高い方に寄る。カーブがゆるいものは、強く叩いてもシンバルがエネルギーを十分に受け取る事ができず、音量が小さくなり、シンバルの主成分となる音域は低い方に寄る。
ボディをチップで叩いた時に出る音とエッジをクラッシュした時の音量の差は、カーブが緩いほど少なくなる。また、これに関してはカップの高さにも同様のことが言える。よく使われる言葉でいうなら、カーブが緩やかなシンバルはオープンなサウンドで、カーブのきついシンバルはフォーカスされたサウンドとなる。
プロファイルの違いによる音色の差が分かりやすい例として、Zildjian のConstantinople のmedium thin Lowとmedium thin Highがある。Highの方がカーブがきつく、Lowの方が緩くなっており、サウンドによく反映されていると感じる。mediumに関しては、medium thin Highよりさらにカーブがきつく、なおかつウエイトも増えている。下のイメージ図では、右よりも左のほうがより音がフォーカスされる印象がある。
ハンマリング
ハンマリングはシンバルから出る音の成分の種類の数を変化させる。小さく規則正しく少ないハンマリングはボウルを叩いたような単一の音に近く、大きくランダムで多いハンマリングは沢山の異なる成分を生み出す。これはハンマリングで作られたシンバルのへこみの各部分での波の伝わり方が複雑に変化することによると思われる。
また、ハンマリングは金属疲労によるシンバルの硬化を進める。トルコ系に多く見られるプロファイルのカーブが少なく、薄く硬めのシンバルは、沢山の細かく浅いハンマリングによる金属疲労が引き起こす硬化が強く出ていると言えると感じる。
レイジング
レイジング(音溝)はシンバル表面を削る加工を指し、シンバルのウエイトと密接に関係している。レイジングが施されているものはウエイトが落ち、施されていないものはウエイトが保たれる。ウエイトが同じもので比較すると、レイジングのあるものはサスティンが長く、高音域まで鳴るものが多く、レイジングのないものはサスティンが短く、高音域の成分が少ないものが多いように思われる。
レイジングはシンバルの一部だけに施すことによって特定の音域のみを強調することができる。例えば、omniに代表されるエッジ部分のみのレイジングはクラッシュの素早い立ち上がりとライドのサスティンを両立させるのに役立っている。また、SABIANの3-point rideにおけるレイジングの残りも、ボディ中頃の中音域を抑えるのに役立っている。
フィニッシュ
フィニッシュは、シンバルとスティックが接触した時に出る音に影響を与える。トラディショナルフィニッシュと呼ばれるような、レイジングしたままの(多くはその後ラッカー塗装を行うが)フィニッシュではレイジングがそのまま残る為、スティックとの接触面積が少なくなる。これによってスティックの鳴る音が大きく、輪郭がハッキリする印象を受ける。一方ブリリアントフィニッシュでは、表面が磨かれて滑らかになっている為、シンバルとスティックとの接触面積が広くなり、なじみの良い音になる傾向にある。この違いは机を指先で叩くことと指の腹で叩くことの違いをイメージするとよいと思う。
裏面だけをブリリアント加工することでスティックのヒットした音像をクリアに保ちつつ、ボディの音を落ち着かせようとしている(と思われる)ものもある。
シンバルをどう選ぶか
シンバルを選ぶ観点として、次のようなものを設けている。
- 音の立ち上がりと音色
- 必要とされている音量
- シンバルの音色変化の仕方
- マッチング
音の立ち上がりと音色
ハイハットについて、私がバラードで使いたいハイハットは立ち上がりが遅くでディケイの長いもので、ファンクで使いたいハイハットは立ち上がりが早くディケイの短いものだ。曲で使う一番短い音価の中でシンバルの音の変化(立ち上がりの始まりからディケイの終わりまで)が収まっていると、扱いやすいと感じる。
ライドに関しては、リズムを刻んだ際にそれぞれの音を分離したいのか、スムーズに繋げたいのかを考える。また、ピアノトリオ等音数が少なく他パートに占有される帯域が広くない場合は、倍音を多く含んだ、軽いウエイトのシンバルが使えるし、大編成のバンド等音数が多くて他パートに多くの帯域を占有される場合はアタックが強調された、重いウエイトのシンバルを使う傾向にある。
クラッシュについては、音楽のテンポに対して、クラッシュの立ち上がりやサスティーン、リリースの長さを考る。また、レコーディングでは曲に対してのピッチを考える。ピッチと曲のキーがかみ合ってしまうと音が埋もれがちになるため、向かいたいサウンドに合ったピッチを選ぶ。
必要とされている音量
それぞれのシンバルには適切な音量の幅がある。薄く音量の小さいシンバルで大きな音を無理に出そうとすれば、シンバルの寿命を著しく縮めるのはもちろん、必要としない無駄な高域成分が鳴ってしまい、シンバルから意図された音が出ない。また、十分なサスティンが稼げず、ほかの楽器に埋もれる原因にもなる(この点はZildjianのSpecial Dryなどドライ系のシンバルにおいて寧ろ長所として扱っている部分もある)。
ドラムのスタイルによってシンバルの扱い方は様々。他の楽器と合わせるときと同じように叩いてみて、曲中の一番大きい音が出る叩き方がシンバルの出せる最大値の少し下になるようなものがベストだと考えている。シンバルの出せる限界ギリギリの音量を常に叩くと、更に音を出そうとした時に対応できない。ただ、この点は太鼓とのバランスにもよる。
シンバルの音色変化の仕方
シンバルは鳴らす強さで音色が変化するが、その変化の仕方はものによって様々だ。ライドを例にあげれば、「シャーン」だったり「コーッ」だったりするシンバルのクラッシュ成分が、小さい音から大きい音に渡って徐々に増えていくものもあれば、ある強さを境に大きく変わる物もある。シンバルのサウンドは叩く場所や強さを変えることによって「カップから出る音」「ボディから出る音」「エッジから出る音」「スティック自体の鳴る音」のバランスを変えてコントロールするため、これらの成分がどう変化していくのか意識を向けることで、シンバルの性格を捉えることができる。
例えば、「小さい時はスティックの音と高音域から中音域が良く鳴るが、強く叩くにつれて、それらは大きく変化しない一方で低音域のワンワンなる成分がどんどん増えるシンバル」や「初めはスティックの音と低音域が鳴り、ある場所を境にして急に高域のクラッシュ成分が出てくるシンバル」、「小さく叩いた時からシンバルが持つ音域全体が鳴り、強く叩くにつれて全体の音量が等しく増加していくシンバル」などがある。一番最後のものは、私がZildjianのシンバル全体に感じたもので、私はこの点を「叩く強さによって音色が極端に変わらず安定して叩けるので、よい点である」と感じた。
マッチング
シンバルのマッチング、つまり組み合わせの考え方にはいくつかある。あるシンバルからほかのシンバルに音色が移ったとき、共通する成分を持っていてほしい場合や、それぞれ役割を明確に分けておきたい場合などだ。私の主観だが、2大メーカーであるZildjianとSABIANを比べたとき、前者を求める演奏家はZildjianが、後者を求める演奏家はSABIANが好きな気がする。